管長の修行問答

2014.04.01

親の介護

愛情をもって出来るだけ優しく語りかけ香りをかがせること

以前の先生の御話の中に「高齢の親を甘やかすこともいけない」という御話がありました。この世に罪を作ることに繋がらないよう、甘やかさないという意味だったと思いますが…。介護をしていると、例えば生ゴミを出すことを忘れてしまう一人暮らしの父親に厳しい口調で出すように言ってしまう…、親に対して子どもとして間違っているのではないか、と落ち込むことの繰り返しです。しかし、厳しくしないとどんどん駄目になっていく認知症の親に対して、どんどん厳しくなっていく自分は間違ってはいない、と思うところもあります。認知症の親に対する、子どもとしての心構えをしっかり持ちたいと思うところです。是非御教示下さい。(東京・A)※本問答は2014年4月・334号のものです。

厳しくすればするほど認知症は進んでしまうので、絶対に厳しくしてはならない。認知症の原因は現実逃避であることを誰も知らない。この病に罹る人たちは、自分の思いと現実が一致してくれないことによる現実拒絶としてこの病を発症させているのである。

特に、正常な時に、真面目な性格の人ほどこの傾向が見られるのである。彼らは全員が「現実に納得がいかない症候群」であるのだ。仕事などに自信を失い鬱になっていく人たちとは違い、このタイプは最後まで自信家なのである。にも拘わらず、家庭に於いて自分が認められない、その存在感がない、近所との折り合いがうまくいかないといった人たちが、段々と現実を直視することを無意識に拒絶し始めることで、発症するのである。

あなたの親御さんはゴミを出すことはご存知なのだ。しかし、もうそういうことに煩って生きていかないと決められたのである。そこには明らかな尊厳があることを正常者は理解出来ないのである。

だから、あなたは、親としての尊厳を保ってあげないといけない。何より、昔の自然の匂い(臭い)を嗅がせてあげることに心を砕いて頂きたい。そして昔、親御さんが聞かれていた音楽や童謡などを聴かせてあげること。昔大ヒットした映画を見せるのもいい。

スキンシップしながら、あなたの幼い頃の話を優しくしてあげるのもいい。そうしていると、段々と改善してくるものである。親も淋しいことを子は理解しないといけない。親を放っておく子など言語道断である。

高齢の親には親身になって世話をしてあげなくてはいけない。優しく親を送ることが出来れば、あなたの〝その時〟には優しく子どもらに送ってもらえることになる。