管長の修行問答

2015.02.01

文化の伝承

家・町村・教育の現場の自覚なくしては早晩消滅する

文化や伝統を残すにはどうしたらよいのでしょうか?時代が代わればそれらが変わるのは当然とはいえ、その地に住む人が誇れる優れたものは残っていくべきだと思います。その真髄は、恐らく精神性を残すことだと思いますが、それこそ文字で残すのは難しく、形式や形となったものから、それの通りに行うことで、後世の人がそこから自らが悟り得るしかないと思います。如何でしょうか。(東京・S)※本問答は2015年2月・344号のものです。

日本人ほどアイデンティティが希薄な人種はいないと言われている。何より重要なのは、アイデンティティを持っていない人種は、どこの国へ行っても誰からも尊敬されないということである。異人種は異人種故に、興味深く学ぶべきものがそこに有るのだが、現代日本人は、根幹たる所で異人種たる知識や哲学が有されておらず、そこには欧米型の文化や思想が入り込んで支配されているのである。その結果として、欧米人が日本人と深く関わった時に、都会の人ほど、アイデンティティが喪失していることを感じ、彼らは、日本の田舎や伝統が残る京都などへと向かうのである。

欧米に留学した日本人がよく言われることは、「何で君は自国のことをきちんと学んでいないんだ」という事である。恥ずべきことだが、事実である。

文化や伝統の継承は、二つの単位で為されなくてはならない。それは、家と町村である。家では節目節目で伝統に基づいた祭りや行事(例えば盆の墓参りや年末の大掃除、正月の飾りや食文化や初詣や凧揚げ…など)である。町村での行事は、家では出来ないもっと大々的なものを二十四節気に合わせて祭事が執り行なわれるだけで良いのだ。

世界に於ける伝承は、毎日同じ日に同じ行事をすることで子へと継承されている。ところが日本では、年々そのやり方が変化したり消えてなくなったりしてしまう傾向にあり、その様な意識では伝承は成されない。

二つの単位以外でも、教育の中にこれらがきちんと取り入れられたならば完璧である。しかし、現在の憲法では、政教分離の建前から、キリスト教や仏教や左翼の猛反対から、伝統に根付いた神道祭事が教育の場で用いられることは難しい。もしこれが可能になれば、伝統の維持はいとも容易いのだが、現実は難しい。

先ずは、自分の家で復活させ、出来るだけ毎年挙行する様にし、周囲の仲間へも広げていくことである。更には全国の祭りや伝承をビデオに記録していくことも重要である。アイデンティティを持った人種になれる事を祈る。