管長の修行問答

2014.07.01

過去への祈り

過去の事実は変わらずも付随する因子群を変えることは可能

過去への祈りは通じるとも通じないともいえるのでしょうか。あの時、苦しまないでいられましたように、と他の人への祈りをすることがあります。(京都・S)※本問答は2014年7月・337号のものです。

この質問は一般的概念からすれば有り得ない事であり、それ以上にナンセンスであり、更にはバカにされて終わる話である。この世の科学認識はその程度のものである。と言っても、私は、タイムマシンで過去に行けるとは思っていない。但し、過去の映像を見ることは可能だと考えている。それは、毎日、夜空に見える星とは全てが過去の産物に過ぎないからである。光と影を追い求めることは出来ても実態を捉えることは不可能だと私は考えている。

ところが、霊の世界に於いては必ずしもそうではない。この世のタイムトリップよりもより現実的だと言えるだろう。但しそれも、やはり「本物の過去」ではない。言うならば空想の中の過去を再現出来るというものである。こんな事を言うと無神論者から妄想と言われるのがオチではあるが、真実である。

さて、実存する人間に於いて、その過去を変えることは出来ない。しかし、その過去によって引きずられてきた現在と未来は変えることが出来るのである。それは過去も現在も未来も気の世界であるからだ。

私が修行過程に於いて体得した限りに於いて、過去も変わり得るという確信が有る。しかしそれは実存する過去というよりは、その過去に付随する諸々の因縁と言うべきである。過去そのものを変える事が出来れば、「今」自体が一瞬にして変わることになるが、そうなると他者との整合性が取れなくなってしまう。

しかし、過去に付随する因子に対する働きかけは有り得るのである。当人にやる気さえあれば、充分に変え得ると確信する。つまりそれは、自分であれ他者であれ、その過去に於ける何らかの苦痛に対し、それを緩和することを可能とするということである。

時間は溯ることは出来ないが、心の世界はそれを可能とするからである。それは、過去の誤解が今解けて心が晴れやかになるのと同種である。その様な因果作用として過去への今の気の配分は、成り立つと確信する。但し、この世に在っては、実存するあらゆる物の力の方が過去のものよりも圧倒的に強く作用するので、過去への関わりはそれなりの苦労を伴うだろう。尤も、過去へアプローチしているより、目の前の現実に積極的に関わった方がその問題が解決することが多い。幸運を祈る!