管長の修行問答
2013.04.01
怠惰という欲
自由性を求める深理が不安や嫌悪の心理と合し怠惰を齎(もたら)す
- 怠惰は物欲の一つと以前仰られたと記憶しております。何故物欲なのでしょうか。そもそも物欲とはどのようなものと考えたら宜しいのでしょうか。ご教示賜りますよう御願い申し上げます。(神奈川・O)※本問答は2013年4月・322号のものです。
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まあこれは、少々強調しての表現ではある。怠惰と見るのではなく食欲や睡眠欲と同様に“なまけ欲”と見た方が理解しやすいという意味で語っている。通常、怠惰といえば“やるきのなさ”的な表現で用いられ、だらしない行為という方向からの見方しかされていないので、見方を変えて、より理解を深めてもらおうとしたものである。
つまり、従来の発想では、人の怠惰はマイナス思考ということになるが、これを欲と捉えると、その瞬間からプラス志向へと変わってしまうのである。
つまり、その場合の怠惰は思惟(しい)欲であり、強い意思が働いていることになる。そこで、あなたの怠惰にはどちらの志向性が強いかを問うた訳である。
単なるマイナスであるならば、それは人生に対する意欲が喪失されていることを意味する。鬱などその典型的な症状である。しかし、大半の人間の怠惰となると必ずしもそうではない。では、その怠惰とはいったい何者なのであろうか?
あなたがやるべき事をやらないのは何故だろうか。考えられるのは以下である。
- 気力が出ない。
- 考えただけで憂鬱になる。
- どうやっていいか分からない。
- 面倒だ。
- その事にやる価値が見出せない。
- 時間がない。
- 怠惰(自由)な時が楽しい。
①はホルモンの分泌が悪く大体、血行も悪い傾向にある。このタイプは、積極的に生活に運動を取り入れ、太陽を浴びる習慣に改善しないといけない。
②行なうべき対象が嫌な場合である。トイレ掃除などがその典型となる。
③これは、部屋の片付けの場合などに於て、しばしば語られることである。何らかの仕事を任されたにも拘わらず放ってしまって、後になって大問題になるということは能く見受けられる事例だ。こういう社員を抱えている会社は倒産の憂目に遭うことになる。
④この面倒というのは、前三者と密接に関わっていることが多い。敢えてここで独立させているのは、そこに前三者よりも、より強い意思が働いているからである。こういうケースは、しばしば意志の強い人に多く、プライオリティー(優先順位)の下位の事に対して、特にこういう表現をすることがある。
⑤、これも④と同様の意識が作用している。しかしこの場合は、自分が必要としていない作業を指しており、他者からの命令に対する拒絶の意思表示でもある。このタイプは、価値を見出せば即行動に移せることを意味している。これは前者群と異なり飽く迄他者からの指示に対する反抗的意識なのである。
⑥、多くは物質的時間は有るのだが、他の仕事等に追われ、精神的にその為の時間を見出し得ていないのである。この場合、他者が仕事の手順などの段取りを付けてくれると突然時間が“生じ”て、出来てしまうのである。
⑦、これは他一切と大きく異なるもので、怠惰をというより、他事にも縛られない自由な時を一時でも長く味わっていたいという欲求なのである。朝起きなくてはならないのに、まだ眠っていたい!と布団の中にいる心理と同じである。しかし現実には、この意識だけが純然として百%働くことはなく、そこには、自分を律する意思の弱さなどが常に介在し、それらの意識や行動は常に数種の心の複合体によって衝き動かされているのである。