春の花祭り

四月は 卯月 うづき 、語源は、卯の花月、稲の種を植える植月という説もあります。

世界では、学校の新年度は九月始まりですが、日本では四月です。

桜

明治時代に入り、新政府は西洋の学校制度を取り入れましたが、国立学校の会計年度が四月始まりで、それに他もならったのが、今日の形です。

最近は温暖化で三月下旬に桜が満開になりますが、入学式で桜が咲いている光景は、とても日本的です。

サクラの「サ」は、「神聖な」という意味で主に稲作に関わる言葉のようです。 苗や 乙女の「サ」も同じで稲霊の意味だといわれています。「クラ」は座、神座つまり「神様がいらっしゃる場所」ということですから、「サクラ」とは神聖な座・稲霊の神座という意味となります。

古来、日本人は、桜に神様が舞い降りておいでになると感じとり、咲き誇る桜の花に、稲作の豊作を予感したのかもしれません。

四月も全国で沢山お祭りが行なわれますが、幾つかご紹介致します。

京都平野神社の桜祭

四月十日、平野神社で行なわれる 桜祭神幸祭 しんこうさい は、平安時代の花山天皇の時に創祀され中世後期に途絶えた平野臨時祭を起源として、大正十年から始まりました。

平野神社は、 延暦 えんりゃく 年間(九世紀初頭)の平安遷都に伴って奈良から京都に遷された唯一の社と伝わっています。平安時代中期以降、京を中心に朝廷から格別の崇敬を受け国家の重大事などに朝廷より奉幣に預かった神社「二十二社」のうちの、一社です。

御祭神は、大和から遷座した 今木 いまき 神、 久度 くど 神、 古開 ふるあき 神・ 比売 ひめ 神です。この 今木 いまき 神、 久度 くど 神、 古開 ふるあき 神は、桓武天皇の外祖父母にあたる やまと 氏、大江氏の奉斎する神々です。

皇室守護神として崇敬され、特に、皇太子の守護神として、皇太子殿下が参向され祭儀に加わられたとのことです。

延暦年間までに、伊勢の神宮での私幣禁断(私事の祈りの禁止)が定められた後、天皇―神宮、皇太子―平野社という祭祀の対応関係ができていったとみられています。

平野神社は、京都の桜の名所として平安時代から名高く、「 さきがけ 桜」「 寝覚 ねざめ 桜」「 平野妹背 ひらのいもせ 桜」「 手弱女 たおやめ 桜」「 突葉根 つくばね 桜」など五十種、約四百本もの桜が植えられています。紅枝垂れ桜、吉野桜が咲く四月初旬、「平野の夜桜」も有名です。

平野神社の桜

平野神社(京都府)
平安時代より植樹され現在では約六十種 四百本が境内に咲き誇る桜の名所

農耕の目印としての桜

『源氏物語』の「花の宴」では、二月二十日過ぎ(旧暦)に南殿の 左近 さこん の桜を愛でる宴の様子が描かれ、平安時代中期には御所での花見も恒例になっていました。

このような貴族や、江戸時代に入っては江戸をはじめ各地で一般庶民の桜見物の記録が残っています。

それと同時に、農作業の指針としての桜伝承があるのが重要です。

「山桜が咲いたら麻を け」(鳥取県)、「桜の花が山の中腹まで咲き上がったら、 茄子 なす の種蒔きと 甘藷 かんしょ (さつまいも)の苗を植えろ」(徳島県)、「山桜が咲いたら甘藷の種を伏せろ」(愛媛県)などです。

岩手県では、特定の桜を「田打ち桜」と呼んでこの花が咲いたら田を耕し始め、新潟県の佐渡や宮城県、山形県には「種蒔き桜」といって、この桜が咲いたら、苗代に種まきを行なっていたそうです。

季節を告げる花として、短期間だけ特定の時期に咲く桜は、特別な信仰と共に、農耕の大切な目印でした。種まきのタイミングは農作物の出来不出来に直結するため、桜前線は、現代以上に、人々の関心を集めてきたことでしょう。

卯月八日花祭り

この日は、お釈迦様の御生誕をお祝いする「 灌仏会 かんぶつえ 」の他にも、さまざまな行事が行なわれてきました。

群馬県の 赤木山麓 あかぎさんろく の村々では、前年に家族が亡くなると、家の者が四月八日に赤城山の地蔵岳にお参りに行き、新潟県の米山薬師、香川県の 弥谷山 いやだにさん 、鳥取県の 九品山 くほんざん などでも、この日に新しい仏を供養するために多くの人が山に登ったそうです。

灌仏会

灌仏会の日、四月八日は、全国でさまざまな行事が行なわれる

京都府から兵庫県にかけての丹波地方では、山には入りませんでしたが、新しい仏のいる家では、「花折り」といって墓参りをします。

これらの死者供養の行事以外にも、農村には四月八日を特別に神の日と考える風習がかなりみられます。

山形県では、この日に山の神様が山から下りてきて田の神様になると伝え、山から花を摘んで田で神様をお迎えするという風習があります。

このように四月八日の花祭りは、お釈迦様の御生誕をお祝いする灌仏会の花、死者供養のための花、農業の神様を山からお迎えするための花など、色々な風習が各地で伝承されてきました。